日本の街路は、文字で埋め尽くされている。漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字、数字。これらが層になって、独特の視覚的密度を生み出している。一つの看板を読むと、その背景に時代が見える。
手書きの時代
戦後から1980年代頃まで、商業看板の多くは手書きであった。看板職人と呼ばれる専門家が、各店舗のために独自の書体を作っていた。

手書き看板の特徴は、ひとつとして同じ字体がないことである。同じ「らーめん」という文字でも、店ごとに筆の勢い、字間、太さが異なる。これが街路の視覚的多様性を支えていた。
ネオン管の表現
ネオンサインは、文字をガラス管で形作る技術である。手書きの文字をガラス管で再現するためには、職人が一本一本曲げていく。その過程で、わずかな歪みが生まれ、それが「ネオンらしさ」を作っている。
デジタル化以後
2000年代以降、看板の多くがデジタル印刷に切り替わった。これにより、字体の選択肢は飛躍的に増えたが、同時に均質化も進んだ。多くの店が、同じフォントを使うようになった。
街路を歩くと、新しい看板と古い看板の同居が観察できる。それぞれの時代が、文字として残されている。