食文化

喫茶店の朝——カウンターの並びと音

神保町の喫茶店は、朝7時に開店する。最初の客は、たいてい、近隣の出版社で働く編集者たちである。彼らは席に着くと、ほとんど何も注文せず、店主は黙ってブレンドコーヒーを出す。長年の習慣が、注文という手続きを省略している。

カウンターの構造

カウンター席は8つ。対面式ではなく、すべて同じ方向を向いている。これは、客同士が顔を合わせなくて済むようにという配慮である。隣り合った客は、互いの存在を意識しつつも、視線を交わさない。これも一種の作法である。

喫茶店のカウンター
朝の光が、カウンターのカップに反射する。編集部

コーヒーの音

サイフォン式のコーヒーは、抽出に時間がかかる。その間、店内には独特の沸騰音が満ちる。客は、その音を聞きながら、新聞や本を読む。

価格と時間

ブレンドコーヒー一杯で、滞在時間に制限はない。これは喫茶店文化の核心である。客は、その一杯のために席を借りているのではなく、空間を借りているのである。出版社の編集者たちは、ここで原稿を読み、打ち合わせをし、考え事をする。一杯450円で、これだけの空間が買える場所は、現代の東京には限られている。