工芸

指物師の道具——釘を使わない木工

指物(さしもの)とは、釘を使わずに木材同士を組み合わせる技術である。「指す」とは、ほぞとほぞ穴を組み合わせる動作のこと。江戸指物は、その代表的な伝統である。

道具の体系

指物師の工房には、極めて多くの種類の道具が並んでいる。鉋(かんな)だけで二十種類以上、鑿(のみ)も用途別に同数。それぞれが、特定の作業のためだけに作られた専用工具である。

指物師の道具と作業台
作業台に並ぶ鑿と鉋。職人が長年使い込んだ道具ばかり。編集部

これだけの道具を使い分けるには、何を、どの道具で、どう加工するかという全体像が頭の中に入っている必要がある。それが指物師の技術の核心である。

木の声を聞く

指物師は、加工する木材を選ぶ段階から、その木の性質を見極めようとする。木目の走り方、年輪の密度、節の位置——これらすべてが、加工の難易度と完成品の質を決める。

良い指物は、季節によって木材が伸縮しても、隙間が生じない。これは、木の動きを予測した上での、精密な計算の結果である。

継承の困難

指物師は、現在、全国で数十名にまで減少している。技術の継承には十年以上かかる一方、現代の住宅では指物家具の需要が極めて限られている。

工房を訪ねた職人は、こう述べた——「道具の使い方は教えられる。でも、木と話す感覚は、自分で身につけるしかない」。これは多くの伝統工芸に共通する課題である。